大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和44年(ネ)113号 判決

控訴人 八日市場市長谷共有地管理組合

右代表者組合長 塚本定吉

右訴訟代理人弁護士 磯部保

同 子安良平

同 和田有史

被控訴人 加藤正夫

〈ほか三七名〉

右被控訴人全員訴訟代理人弁護士 五木田隆

右被控訴人中○印を付した被控訴人訴訟代理人弁護士 池田真規

同 岩崎修

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実

第一、当事者双方が求めた判決

一、控訴代理人

(一)  原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。

(二)1、被控訴人加藤正夫は、控訴人に対し、別紙第三物件目録No.1記載の土地の明渡をせよ。

2、被控訴人宇野千代は、控訴人に対し、同目録No.3ないし8記載の土地を明け渡し、別紙第二物件目録(一)記載の建物を収去して別紙第三物件目録No.2記載の土地の明渡をせよ。

3、被控訴人宇野喜一は、控訴人に対し、別紙第三物件目録No.9記載の土地明渡をせよ。

4、被控訴人伊藤文雄は、控訴人に対し、同目録No.10ないし12記載の土地及びNo.14ないし19記載の土地を明け渡し、別紙第二物件目録(五)記載の建物を収去し、別紙第三物件目録No.13記載の土地の明渡をせよ。

5、被控訴人宇野栄次郎は、控訴人に対し、同目録No.20ないし22記載の土地の明渡をせよ。

6、被控訴人酒井永助は、控訴人に対し、同目録No.23記載の土地の明渡をせよ。

7、被控訴人霞もとは、控訴人に対し、同目録No.24、25記載の土地の明渡をせよ。

8、被控訴人熱田佐吉は、控訴人に対し、同目録No.26、28、29記載の土地を明け渡し、別紙第二物件目録(七)記載の建物及びブロック塀を収去して別紙第三物件目録No.27記載の土地の明渡をせよ。

9、被控訴人鳥飼きくは、控訴人に対し、同目録No.30記載の土地の明渡をせよ。

10、被控訴人関松之助は、控訴人に対し、同目録No.31記載の土地の明渡をせよ。

11、被控訴人加藤健治は、控訴人に対し、同目録No.32、33記載の土地の明渡をせよ。

12、被控訴人宇野昭夫は、控訴人に対し、同目録No.34記載の土地を明け渡し、別紙第二物件目録(八)記載の建物を収去して別紙第三目録No.35記載の土地の明渡をせよ。

13、被控訴人石原かつ同田中喜久同宇野惣平同増田春枝同宇野寅雄同西野久枝同磋峨正枝は、控訴人に対し、同目録No.36記載の土地を明け渡し、別紙第二物件目録(九)記載の建物を収去して別紙第三物件目録No.37記載の土地の明渡をせよ。

14、被控訴人宇野佐吉は、控訴人に対し、同目録No.38ないし42記載の土地の明渡をせよ。

15、被控訴人宇野清は、控訴人に対し、同目録No.43ないし50記載の土地の明渡をせよ。

16、被控訴人宇野仁三郎は、控訴人に対し、同目録No.51記載の土地の明渡をせよ。

17、被控訴人伊藤静は、控訴人に対し、同目録No.52ないし54記載の土地の明渡をせよ。

18、被控訴人伊藤喜美枝は、控訴人に対し、同目録No.55ないし59記載の土地の明渡をせよ。

19、被控訴人宇野喜一は控訴人に対し、同目録No.60ないし68記載の土地の明渡をせよ。

20、被控訴人伊藤イクは、控訴人に対し、別紙第二物件目録(六)記載の建物を収去して別紙第三物件目録No.69記載の土地を明け渡し、同目録No.70、71記載の土地の明渡をせよ。

21、被控訴人熱田銀蔵は、控訴人に対し、同目録No.72、74、75記載の土地を明け渡し、別紙第二物件目録(四)記載の建物を収去して別紙第三物件目録No.73記載の土地の明渡をせよ。

22、被控訴人宇野勇は、別紙第二物件目録(三)記載の建物を収去して別紙第三物件目録No.76記載の土地を明け渡し、同目録No.77記載の土地の明渡をせよ。

23、被控訴人宇野勇同宇野愛雄は、控訴人に対し、同目録No.78ないし82記載の土地の明渡をせよ。

24、被控訴人宇野愛雄は、控訴人に対し、同目録No.83ないし86記載の土地の明渡をせよ。

25、被控訴人山口仲蔵は、控訴人に対し、別紙第二物件目録(二)記載の建物を収去して別紙第三物件目録No.88記載の土地を明け渡し、同目録No.87、89ないし92記載の土地の明渡をせよ。

26、被控訴人宇野保同宇野清は、控訴人に対し、同目録、No.93、94記載の土地の明渡をせよ。

27、被控訴人平山昌子同平山勇同平山民子同飯塚志津子は、控訴人に対し、同目録No.95ないし97記載の土地の明渡をせよ。

28、被控訴人土屋克夫は、控訴人に対し、同目録No.98ないし103記載の土地の明渡をせよ。

29、被控訴人宇野禎郎は、控訴人に対し、別紙第一物件目録(一)記載の土地の明渡をせよ。

30、被控訴人石毛喜八郎は、控訴人に対し、別紙第三物件目録No.104、105記載の土地の明渡をせよ。

(三)  訴訟費用は、被控訴人らの負担とする。

(四)  仮執行宣言

二、被控訴代理人

控訴棄却

第二、主張

一、控訴代理人

(一)  請求原因

1、別紙第一物件目録記載の土地(以下、「本件土地」という。)は、明治年間千葉県匝瑳郡共興村(現在八日市場市に合併)大字長谷の部落民遠藤兵助外一七四名が國有土地森林原野下戻法(明治三二年法律九九号)に基づき國から払下を受けた土地の一部にして、右払下により、本件土地は、遠藤兵助外一七四名の共有となった。

2、被控訴人らは、本件土地のうち請求の趣旨記載の土地部分をそれぞれ占有し、被控訴人宇野千代は、別紙第三物件目録No.2記載の土地上に別紙第二物件目録(一)記載の建物を、被控訴人伊藤文雄は、別紙第三物件目録No.13記載の土地上に別紙第二物件目録(五)記載の建物を、被控訴人熱田佐吉は、別紙第三物件目録No.27記載の土地上に別紙第二物件目録(七)記載の建物及びブロック塀を、被控訴人宇野昭夫は、別紙第三物件目録No.35記載の土地上に別紙第二物件目録(八)記載の建物を、被控訴人石原かつ同田中喜久同宇野惣平同増田春枝同宇野寅雄同西野久枝同瑳峨正枝は、別紙第三物件目録No.37記載の土地上に別紙第二物件目録(九)記載の建物を、被控訴人伊藤イクは、別紙第三物件目録No.69記載の土地上に別紙第二物件目録(六)記載の建物を、被控訴人熱田銀蔵は、別紙第三物件目録No.73記載の土地上に別紙第二物件目録(四)記載の建物を、被控訴人宇野勇は、別紙第三物件目録No.76記載の土地上に別紙第二物件目録(三)記載の建物を、被控訴人山口仲蔵は、別紙第三物件目録No.88記載の土地上に別紙第二物件目録(二)記載の建物を所有している。但し、右建物のうち別紙第二物件目録(一)及び(三)記載の建物は、既に朽廃している。

3、控訴組合は、本件土地の共有者の一部により、本件土地を分割し、これを共有関係から単独所有にする目的で、昭和三六年四月一〇日結成された団体で、権利能力なき社団である。控訴組合は、組合加入の共有者からその有する本件土地管理権を信託的に譲渡された。

4、よって、控訴人は、前記信託的に譲渡を受けた本件土地の管理権に基づき、被控訴人らに対し、前記各占有土地の明渡を求める。

(二)  本案前の抗弁に対する答弁

控訴組合加入の共有者の控訴人に対する本件土地管理権の信託的譲渡が訴訟行為をさせることを主たる目的としたものであるとの主張は否認する。右管理権の信託的譲渡が無効であるとの主張及び控訴人の有する管理権に妨害排除を請求しうる権利が含まれないとの主張は争う。

(三)  抗弁に対する答弁

1の事実中明治年間遠藤兵助外一七四名の長谷区民が國有土地森林原野下戻法に基づき國から本件土地の払下を受け、右一七五名の共有となったことは認めるが、その余の事実は否認する。2の事実中区長に賃貸の権限があったこと及び賃貸に関する事実を否認し、相続に関する事実を認める。

(四)  再抗弁

仮りに、被控訴人らに賃借権があるとしても、控訴代理人において、昭和四九年四月一日の本件口頭弁論期日において、一次的に、昭和三六年四月一〇日以降の賃料不払を理由に賃貸借契約解除の意思表示をし、二次的に、解約の申入をなしたので、被控訴人らの抗弁は、理由がない。

二、被控訴代理人

(一)  請求原因に対する答弁

1の事実は認める。

2の占有に関する主張のうち被控訴人らが控訴人主張の土地を占有していることは認めるが、別紙第三物件目録No.3、4、38ないし40、78ないし81、93、94の土地は、國有地にして本件土地に含まれず、また、同目録No.2記載の土地の面積は一反一畝一二歩、同目録No.9記載の土地の面積は三畝二八歩、同目録No.67記載の土地の面積は二畝四歩、同目録No.76記載の土地の面積は一四二坪である。

3の事実は知らない。

(二)  本案前の抗弁

控訴人主張の管理権の信託は、(一)共有者全員による信託でなく、(二)持分権は共有者に帰属したまま管理権のみを信託するものであり、(三)被控訴人らに明渡を求める訴訟行為をさせることを主たる目的とするものであるから、無効であり、かりに、控訴人が信託による管理権を有するとしても、右管理権には妨害排除を請求しうる権利は含まれていないのであるから、控訴人には、原告として本件明渡を求める当事者適格がない。

(三)  抗弁

1、本件土地は、江戸時代から長谷区民が入會地として利用してきたもので、明治年間國有土地森林原野下戻法に基づき國から遠藤兵助外一七四名の長谷区民が払下を受けた後は共有の性質を有する入會地となった。入會地たる本件土地の管理は、長谷区民が選出した区長がこれに当り、長谷区民は、区長の管理の下に、本件土地の収穫物(秣草・薪炭・落葉・茸等)を採取し、営農生活の需要を満していたところ、太平洋戦争開始後から戦後にかけ、政府の指導の下に、本件土地の一部を田畑として開墾し、また、住居用に使用することとなった。

2、被控訴人加藤正夫、被控訴人宇野千代の被訴訟承継人宇野権十郎、被控訴人宇野喜一の被訴訟承継人宇野良平、被控訴人伊藤文雄の被訴訟承継人伊藤正司、被控訴人宇野栄次郎の被訴訟承継人宇野次郎、被控訴人酒井永助、被控訴人霞もと、被控訴人熱田佐吉の被訴訟承継人熱田清太郎、被控訴人鳥飼きく、被控訴人関松之助、被控訴人加藤健治の被訴訟承継人加藤八十八、被控訴人宇野昭夫、被控訴人石原かつの被訴訟承継人宇野もと、被控訴人宇野佐吉の被訴訟承継人宇野富次、被控訴人宇野清、被控訴人宇野仁三郎、被控訴人伊藤静、被控訴人伊藤喜美枝の被訴訟承継人伊藤健二、被控訴人宇野喜一、被控訴人伊藤イク、被控訴人熱田銀蔵、被控訴人宇野勇、同被控訴人の被訴訟承継人宇野謙治、被控訴人宇野愛雄、被控訴人山口仲蔵、被控訴人宇野保の被訴訟承継人宇野偕助、被控訴人平山昌子の被訴訟承継人平山つ、被控訴人土屋克夫、被控訴人宇野禎郎及び被控訴人石毛喜八郎は、各自その占有部分をいずれも昭和二一年までに当時の長谷区長から期限を定めずに賃借(賃借の時期は、別紙第三物件目録No.36、37記載の土地は大正一〇年、同目録No.93、94記載の土地は大正一一年、同目録No.46、47、49、50、76記載の土地は昭和一七年で、その余の土地はすべて昭和二一年)し、被控訴人宇野千代は、昭和五〇年七月三日宇野権十郎の死亡による相続により、被控訴人宇野喜一は、昭和四八年六月九日宇野良平の死亡による相続により、被控訴人伊藤文雄は、昭和四九年二月二四日伊藤正司の死亡による相続により、被控訴人宇野栄次郎は、昭和四九年四月二八日宇野次郎の死亡による相続により、被控訴人熱田佐吉は、昭和四七年一月一〇日熱田清太郎の死亡による相続により、被控訴人加藤健治は、昭和四七年一月一〇日加藤八十八の死亡による相続により、被控訴人石原かつ、同田中喜久、同宇野惣平、同増田春枝、同宇野寅雄、同西野久枝及び同瑳峨正枝は、昭和四七年九月二三日宇野もとの死亡による相続により、被控訴人宇野佐吉は、昭和四二年二月一三日宇野富次の死亡による相続により、被控訴人伊藤喜美枝は、昭和四七年七月一二日伊藤健二の死亡による相続により、被控訴人宇野勇及び同宇野愛雄は、昭和四五年六月八日宇野謙治の死亡による相続により、被控訴人宇野保及び同宇野清は、昭和三九年三月一四日宇野偕助の死亡による相続により、被控訴人平山昌子、同平山勇、同平山民子及び同堀田志津子は、昭和四二年一月一三日平山つの死亡による相続により、それぞれ、その被訴訟承継人の占有した土地の賃借権を承継取得したので、被控訴人らの右各土地の占有は、控訴人に対抗することができる。

控訴代理人のなした解除の意思表示は、催告をせずになされたものであるから効力がなく、また、別紙第三物件目録No.2、13、27、35、39、69、73、76、88記載の各土地に関する賃貸借契約は、建物所有を目的とするもので借地法の適用を受け、その余の土地に関する賃貸借契約は、農地法の適用を受けるので、控訴代理人の解約申入により賃貸借契約は終了するものではない。

また、控訴人に明渡請求権があるとしても、控訴組合は、共有者の一部により、被控訴人らに賃借権があることを知りながら、右賃借権を消滅させることを目的として結成されたものであるので、控訴人の本訴請求は、信義則に反し、権利の濫用であり、許されないものというべきである。

第三、証拠関係《省略》

理由

一、本件土地の歴史

長谷区の住民遠藤兵助外一七四名が明治年間本件土地を国有土地森林原野下戻法(明治三二年法律九九号)に基づき国から払下を受け、右一七五名の共有となったことは、当事者間に争いがなく、《証拠省略》によると、次の事実を認めることができ(る。)《証拠判断省略》

1、本件土地は江戸時代から現在の長谷区の地域の住民のための入會地として慣行的に利用され、生育する松立木は、道路・橋梁の補修に用いられ、秣草、落葉、茸等は、営農生活の需要を満すために用いられ、この入會慣行は、明治年間遠藤兵助外一七四名の住民が国有土地森林原野下戻法に基づいて國から払下を受け、共有地となった後も、もとより、変更されることなく継続されてきた。

2、長谷区には、新田・本郷・上野・西會根・横川・道祖神の七部落があり、本件土地の管理・処分は、昔から、右各部落ごとに選出された総代により選ばれた区長が総代と協議して行う慣行が樹立され、本件土地は、区長の統制の下に、部落民のため、入會地として利用されてきた。区長による管理の慣行が何時から行われたかを明らかにする資料はないが、本件にあらわれた資料によるも、明治四四年当時には、右慣行が存在したことは明らかである。

3、本件土地のうち、別紙第一物件目録(二)、(三)、(五)、(六)及び(七)記載の土地は、大正九年五月七日保安林(潮害防備林)に指定された。

4、本件土地は、太平洋戦争開始前は、中村健蔵が本件土地の一部を宅地として区長から賃借するなど数少ない例外を除き、その大部分が山林・原野のままであったが、戦後は、保安林も開墾されて田畑と化し、本件土地の様相は、戦前と大きく変るにいたった。右の開墾は、戦後の食糧事情悪化のため、政府において保安林の開墾を許容して食糧増産を奨励し、区長江波戸孫平(戦前から昭和二一年一二月まで区長として在職)が、政府の方針に応え、従前からの部落民のほか戦災を受けて帰郷した部落出身者及び引揚者らに本件土地を賃貸することにより行われた。

二、被控訴人らの本件土地の占有及び占有権原

1、被控訴人らが別紙第三物件目録記載の各土地中控訴代理人主張の土地を、同目録No.2、9、67、76記載の土地の面積は別として、それぞれ占有していることは、当事者間に争いがなく、右No.2、9、67、76記載の土地の面積を被控訴代理人は争うが、原審における控訴組合代表者塚本定吉本人尋問の結果により成立を認めうる甲第三号証の一ないし三によれば、右各土地の面積が控訴代理人主張のとおりであると認められ、これを動かす証拠はない。被控訴代理人は、別紙第三物件目録記載の土地中No.3、4、38ないし40、78ないし81、93、94記載の土地は国有地にして本件土地に含まれず、その余の土地は本件土地に含まれると主張する。原審における控訴組合代表者塚本定吉本人尋問の結果により成立を認めうる甲第四号証の一・二によると、控訴組合と千葉県知事は、昭和三九年一二月二六日新川河川敷地及び県道路敷と本件土地との境界につき合意を見たことが認められ、甲第四号証の二添付の図面は、前掲甲第三号証の一と同一のものである。甲第三号証の一によると、別紙第三物件目録No.3、4、38、39、40、78ないし81、94記載の各土地は、いずれも本件土地に含まれるものの如きであり、甲第四号証の二の本文に添付図面との間に知事の契印がなされたことが認められるが、甲第四号証の二添付の図面に捺されている契印は、本文に捺されている知事の契印と異るばかりでなく、同図面には、被控訴人らの占有部分を記入するなど、境界確定用に通常用いられる図面と趣きを異にしているので、甲第四号証の一、二により右各土地が本件土地に属すると断定することはできないのみならず、《証拠省略》によれば、右各土地は、新川の旧河川敷であることが認められ、甲第四号証の一・二は、河川関係については、別紙第一物件目録(三)ないし(六)その他の土地と新川河川敷との境界を定めたものであるので、前記No.3、4、38ないし40、78ないし81、94記載の土地が本件土地に含まれるとする控訴代理人の主張は、その証明がない。別紙第三物件目録No.93の土地は、《証拠省略》によれば、別紙第一物件目録(三)記載の土地に属することが認められるので、右土地を國有地であるとする被控訴代理人の主張は、失当である。

2、《証拠省略》によると、次の事実を認めることができる。

(一)  被控訴人加藤正夫、被控訴人石原かつの被訴訟承継人亡宇野もと及び被控訴人宇野勇は、前認定の各占有地を太平洋戦争開始前に当時の区長から賃借し、その余の被控訴人ら(被控訴人のうち訴訟承継人はその被訴訟承継人)は、戦後区長江波戸孫平から前認定の占有地の全部あるいは一部を賃借し、一部を賃借した者は、その後無断開墾により占有地を拡大し、現在の占有地になった。

(二)  江波戸義助は、昭和二一年一二月二〇日区長に就任し、新規開墾のため本件土地を賃貸することはしなかったが、前区長時代の賃借人が賃借地を越えて無断開墾した土地につき右賃借人から賃料を徴し、正規の賃貸地とした。戦後の賃料は、一反当り、耕地は年四〇〇円、宅地は年五〇〇円の割合で定められ、耕地の場合は賃貸後三年間は賃料を免除された。江波戸義助が区長に就任してから賃料領収証を発行したが、それまではかかることをせず、区備付の帳簿にその旨を記載するにとどめた。

三、控訴組合の結成

《証拠省略》によると、塚本定吉、大木善夫、川口正夫、川口覚司及び川口謙治の五名は、区長江波戸義助が、別紙第一物件目録(八)及び(九)記載の松立木を本件土地の共有者に無断で伐採し、一宮・飯岡間の県道敷地中本件土地部分を八日市場市に共有者に無断売却する等共有者に不利益な行為をなしたとし、自ら発起人となって昭和三六年四月一〇日区長江波戸義助に批判的な共有者を招集して権利者大會を開き、共有者九五名をもって控訴組合を結成し、本件土地を控訴組合において管理し、本件土地を分割して共有者の単独所有とすることを組合結成の目的とすることとし、委員一九名(このうち一名は委員長、二名は副委員長)を選出し、同日、組合規約を定め、同規約において本件土地の分割を組合の目的とし、組合加入資格を有する者は本件土地の共有者に限ること、管理委員を組合の機関とすることその他を定め、昭和三八年四月二五日開催の総會において、規約の改正をし、管理委員を理事、委員長を組合長、副委員長を副組合長と機関の名称を変更したことが認められ、右によれば、控訴人は、権利能力なき社団ということができる。

四、控訴人の当事者適格

《証拠省略》によると、昭和三八年四月二五日開催の総会において、規約を改正し、控訴人が、本件土地の分割という組合結成の目的を達成するため、その名において訴訟行為をなしうるものとしたことが認められる。控訴代理人は、控訴人が当事者適格を有することの根拠として、控訴組合加入の共有者による管理権の信託的譲渡を主張するが、右主張は、管理についての代理権の付与にほかならず、従って、右により、控訴人の当事者適格を肯認することはできない。しかし、控訴代理人の右主張は、控訴人が本訴追行権を有することの説明としてなしたものであり、控訴人は前記のように、昭和三八年四月二五日開催の総会において訴訟追行権を付与されたのであるから、この点から控訴人の当事者適格を検討する必要がある。右訴訟追行権の付与は、いわゆる任意的訴訟担当権の付与であり、本件の場合、控訴組合は、本件土地の共有者のみで構成されているのであるから、これに訴訟担当権を付与しても弁護士代理の原則を回避し、または信託法一一条の制限を潜脱するものということはできないので、右訴訟担当権の付与は、これを許容して妨げないものというべく、控訴人は、本件訴訟につき当事者適格を有するものと認むべきである。

五、本訴請求の当否

1、別紙第三物件目録No.3、4、38、39、40、78、79、80、81、94記載の土地は、前認定のとおり、本件土地に含まれないので、右土地の占有者たる被控訴人に対する請求は、失当である。

2、その余の土地は、前認定のとおり、被控訴人ら(訴訟承継人たる被控訴人については、その被訴訟承継人)において本件土地の管理権を有する区長から適法に賃借したのであり、被訴訟承継人宇野権十郎、同宇野良平、同伊藤正司、同宇野次郎、同熱田清太郎、同加藤八十八、同宇野もと、同宇野富次、同伊藤健二、同宇野謙治、同宇野偕助及び同平山つが、被控訴代理人主張の日に死亡し、その主張の被控訴人らにおいてそれぞれ相続したことは、当事者間に争いがないので、右相続により、それぞれその被相続人の前記各賃借権を承継取得したものと認められる。

3、控訴代理人は、右賃借権が解除・解約により終了したと主張するが、賃料不払を理由とする解除は、催告なしになされたものであるから無効というべく、宅地に関する賃貸借契約は、借地法の適用を受けるのであるが、別紙第二物件目録(一)及び(三)記載の建物が朽廃したとの主張は、これを認める証拠がなく、控訴代理人は、各賃貸借契約の期間満了時を明示せず、また、正当事由についてはなんら主張立証しないのであるから、解約の申入により、宅地に関する賃貸借契約が終了したと認めることはできず、農地に関する賃貸借契約は、農地法の適用を受けるのであるから、一片の解約申入により賃貸借契約を終了させうるものでないことはいうをまたない。

六、結論

以上認定のとおり、控訴人の本訴請求は理由がないので、本件控訴は、これを棄却すべく、控訴費用の負担につき民事訴訟法九五条八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小山俊彦 裁判官 山田二郎 堂薗守正)

〈以下省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例